おせっかい

 ある老人会の集まりで、在宅医療について講演をしました。そのエリアは老人会長さん曰く、『みんな顔見知りだから、お互いに助け合って頑張っているんだ』と私の方が勇気づけられるお話をしていました。


 偶然にも講演会の翌週に、集会場がある建物の上層階(エレベーターなしの4階建ての4階)のAさんというお宅から発熱往診の依頼がありました。行ってみると明らかに認知症を思わせる言動の方がおひとり暮らししていました。お話をAさんに聞いたのですが詳細が分かりませんでした。この為、再度往診依頼をしてきたAさんの娘さんに電話しました。娘さんは同居されていないことが分かりました。そしてAさんの抗原検査を行いました。コロナ陽性でしたから、薬の準備をして私はAさんのお宅を後にしました。
 
 しかし無性に心配だったので翌日娘さんに状況確認のお電話をしたのですが、繋がりませんでした。どうしても心配だったので、ご自宅の呼び鈴を押してみたのですが誰も出てきませんでした。
 夕方になり娘さんから当院に電話があり、『入院した』と教えてくれました。前日時点では、そこまで状態が悪くなかったので経緯を娘さんに尋ねました。すると娘さんは『今朝になって、パジャマのまま外に出て行って、交通事故にあった。』と教えてくれました。これを聞いて私はとても驚きました。
 

 数日後に老人会長さんに連絡する機会があったので、Aさんの名前を出さずにそれとなく聞いてみました。『ご近所で認知症の方が発熱したので私が診察に行きました。その方が交通事故にあったんですよ。なにかご存じですか?』と。
 すると、老人会長さんは言いました。『知らないね。第一、病気になった人とは私たち(老人会の会員)は余り関わらないんだ。だって、病気になっている人に何を話しかけていいかなんて分からないだろ。だから知らないし分からないよね。そんなおせっかい出来ないよね。』だそうでした。
 

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