新郎の父 9 ネーザルエアウェイ

 呼吸の不安定さは翌日も続きました。次に考えたのはネーザルエアウェイです。しかし当院は大病院ではありませんし、しがない在宅クリニックなのでネーザルエアウェイを持ち合わせていません。なんでも揃えておけるお金もありませんし、そもそもこれまでの日本の在宅医療の概念からすれば、病院での医療を諦めて在宅医療を導入したガン末期の患者さんに、ネーザルエアウェイを入れてまで延命することは異常とさえ思われかねません。一般的にはネーザルエアウェイなんて入れないでミダゾラムで寝かせてあげるのが王道ではないでしょうか。
 しかし、しかしです。Cさんは結婚式に出席したいのです。そのために病院から帰ってきたのです。ですから私が迷っている暇はありませんでした。
 ただ残念ながらこの日は土曜日でありネーザルエアウェイを準備してくれるような医療品卸会社さんが容易に見つかるはずもありませんでした。事実、連絡した数件の卸会社さんからは断られました。その中で懇意にしてくださっている卸会社さんの担当者さんから驚くようなご返答をいただきました。
 『自分の会社も埼玉県には在庫はありません。なので、これから高崎の営業所に車で取りにいって来ます。恐らく3-4時間もあれば準備できます。』と仰って下さいました。内心驚愕しました。ネーザルエアウェイの価格なんて二束三文ですから、会社の儲けなんて無いも同然なはずです。本当驚きました。本当にありがとうございました。

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