アデノウイルス・溶連菌抗原検査

(※2024年1月7日現在はアデノ・溶連菌共に抗原検査キットを最低限確保できました。
しかし不足していることは現状も続いております。)

あけましておめでとうございます。
今日も発熱往診してきました。

行き場がなくて困っている患者さんからのご連絡が多かったように感じます。

とても悲しいことがありました。といっても、自分が自分に腹を立てているだけですが、とても悲しいことがありました。

以前にも書いたことがあるのですが、溶連菌とアデノウイルス抗原検査のキットの購入が非常に厳しい状況です。当院は溶連菌の検査キットは何とか手に入れたのですが、アデノウイルスのキットが本日時点で残り1個になりました。どうしてこんなに品薄なのかは本当のところは明らかではありませんが、恐らくはとある業界の利害関係だと思われます。

埼玉県にも川越市にも相談しましたが、個人の医療機関で対応するようにとのお言葉をいただきました。

本日は午前中に発熱6日目の子供の往診依頼が2件続きました。埼玉県コロナ総合相談センターにご家族が問い合わせて、川越では小児は当院だけが対応可能な医療機関であるため、必然的に当院に連絡がきました。

数日前から他院にはかかり、原因不明ながら処方を受けて自宅療養をしていたものの改善せずに、心配が募っていらっしゃいました。

発熱後2-3日で状態が安定していれば、私も『インフル・コロナ・溶連菌を検査して、陰性だったら経過を見ましょう』とお伝えするのですが、さすがに6日目でしたしグッタリしていたので、アデノを確認しました。ありがたいことに両方の患者さんでアデノ陽性となりました。

お母様は原因が判明し、とても安心しており涙ぐんでいらっしゃいました。そのお母様曰く、『センターに電話相談しても、数日様子を見るようにと毎回言われるばかりで、不安で不安で仕方がなかった』と。

そのようなご家族様の安心した顔を見て、『少しはお役に立てたかな』と私も嬉しく思いました。しかし、検査キットが残り2枚になったことは忌々しき問題でした。

夕方になり更に別のお宅からの往診依頼がありました。幼稚園のお子さん(A君)で発熱3日目でした。発熱と目ヤニ・結膜の充血があると連絡がありました。この症状からすると、アデノを強く疑います。上にも書いたように、まだ発熱3日目ですから、全身状態が落ち着いていれば検査をしなくても良い案件です。まずは、ご本人の状態を診察しようと思い車に乗って向かいました。

ちょうどその時です。石川県の地震が発生しました。私の実家は新潟県の上越市であり、両親は今もそこに住んでいます。すぐに電話をして安否を確認しました。ありがたいことに、特にケガもなく過ごしていることが分かりました。郷里から離れて好き勝手に生きている自分からすれば、『両親に寂しい思いをさせてまでやっている仕事なんだから頑張らねば』と思いました。

私は東日本大震災の頃に心身ともに弱っており、東北の為に役に立ちたいのにそれができませんでした。それ以降もずっとそのことが心の片隅にありました。それもあってか、コロナ禍では人々の役に立ちたいと思い、自分にできる事はしてきたつもりです。発熱も地震も不安であろうA君のお母様のことを思うと胸が痛みました。A君のご自宅に到着しました。ありがたいことに、A君は落ち着いているように見えました。『インフルかコロナか溶連菌であってくれ』と心の中で祈りました。しかし検査ではどれも陰性でした。その時A君のお母さんがポツリと言いました。『この検査でアデノもわかるんですか?』。

私はぞっとしました。しかしすぐに『わかりませんよ』と笑顔で答えました。『アデノには特効薬がないから、わかってもあまりメリットもありませんし。』と伝えましたが、お母さんは残念そうに『ありがとうございました。』と仰っていました。

自分だけは車の中に2枚の検査キットがあることを知っているのです。午前中には検査をしたことで2人のお母さんたちが涙を流しながら安心した姿を私は見ました。ほんの数分前まで『人の役に立ちたい』と思っていたはずなのに、お母さんに検査キットを自分が持っていることを隠したのです。私は非常に居心地がわるくなり、足早にA君の家を離れました。A君のお母さんもお祖父さんもお婆さんも、『寒いのに来てくれて、ありがとうございました』と私を見送って下さいました。

正直自分が嫌になりました。どうして思いとは逆のことをしているのだろうかと。私が一枚も持っていなければ自分なりに諦めもつきます。しかし実際には持っているのです。ただし、明日往診依頼が来た時に、長期間不明熱のお子さんの場合に戦う武器がないのです。これを読んでくださる方の中には、『感染症が重篤化しているのかを検査キットに委ねる必要はない』とお考えの方もいる事でしょう。しかしそれは、一部は正しく一部は間違っています。病院やクリニックで患者が来るのを待っているころは、自分もそんな風に思っていました。『命に関わらなければいいじゃない』と。しかし、自分が親になりご自宅にいる患者さんを診るようになった今は、『安心して子供たちと明日を迎える事ができる』ことがいかに重要であるかと強く感じています。

その観点からして、私はこのA君のご家族を裏切っているのです。このことを当院の事務長に電話ですぐに相談しました。彼は即答しました。『先生(私のこと)のモチベーションが落ちるのならば、検査した方がいいと思う。明日からまた検査キットを探すから、もう一度検査をしにいった方がいい』と。事務長が再度A君のお宅に電話をし、ご意向を確認したところ是非お願いしたいとの返答だったようです。

更にありがたいことに、坂戸市にある小児科医院の知人の先生が、『5本ならば貸してあげるよ。だから今見ている患者さんに検査してあげて』とお電話を下さいました。ご自分のところも枯渇しており、なけなしのものであることは間違いないのに、本当にありがとうございました。

私は踵を返してA君のお宅に向かいました。そして、洗いざらいをご家族に伝えました。私が隠し持っていたこと。世の中にアデノのキットが枯渇している事。検査してあげたくてもそれが難しいこと。行政は動いてくれないこと。年末年始は稼働している医療機関自体がほぼなく、どうしてあげようもないこと。とにかく謝りました。涙がでました。

ご家族はご理解してくださいました。そのうえでアデノの検査をしました。もちろん陽性でした。

やってあげたくてもやってあげられないのです。しかし年末年始でも病気は待ってくれませんし、病院がどこもお休みだと市民は更に不安になります。重症化してから診れば良いのでしょうか?命に関わらなければ不安は我慢しなければならないのは本当でしょうか?本当に仕方ないのでしょうか?

市民は怒るべきです。
『どうして診察してもらえないんだ?』
『どうして検査してもらえないんだ?』
『どうして大事にしてもらえないんだ?』
これに対して本当に仕方がない理由があるんでしょうか?医療関係者だけが頑張ればよいとは思いません。市民ももっと普段から健康のことを学ぶべきです。コロナにせよアデノにせよ、回復したら皆さん苦しかった頃をすぐに忘れてしまう。でも、あなたが回復しても、あなたのお宅のお隣さんがまるで同じような不安や苦しみを明日味わうかもしれないのです。ですから、もっと自分たちの安全に意識を持つべきだと思います。
 そのために私達を使ってください。きっとなにか良い打開案が生まれると思うのです。
 お願いです。どなたか力を貸して下さい。困っている方はいくらでもいるのです。そんな方たち程、発言する力がないのです。私たちと一緒に考えて頂けないでしょうか。よろしくお願いいたします。

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