来年のカレンダー
95歳の女性『お母さん』に定期訪問しました。マンションに一人で住んでいます。ご近所に娘さんが住んでいますが、やはり一人は寂しいとおっしゃっています。
日がな一日することもないとこぼしています。デイサービスの利用にはあまり乗り気ではありません。
お母さんは、『もう、なにもしないで終わりにしたい』と仰ることもあり、そんなお母さんに対して僕は『そんな寂しいこと言わないでよ』と声をかけるわけです。
ふとテーブルに目をやると、素敵な手編みの帽子がありました。『これどうしたの?』と聞くと、『わたしが作ったのよ』っと。『いいね。すごく素敵』と僕が言うと、『いいわよ、あげるわ』と言って4枚も下さりました。
ここのところ大分寒くなっていますから、とっても嬉しかったです。すると、お母さんがこう続けました。『来年のカレンダーも出来てきたから見る?』と。僕は『誰が作ったの?』と聞くと、お母さんは『毎年私が書いているの』と言いながら、とても素晴らしいカレンダーを見せて下さいました。
これを30年来毎年作っているそうで、ご主人様が御存命だったころからの共同制作も見せて下さいました。カレンダー以外にも素敵な作品が多くあります。
聞けば、数十年前に坂戸にいらっしゃった水墨画の有名な先生のお弟子さんだったそうで、お母さん本人も生徒さんをもっていたそうです。作品を一通り鑑賞し、僕は『もう終わりにしたいなんて言わないで下さいよ。また水墨画教室を始めたらいいのに。』と尋ねると、『もう疲れちゃうからできない』と仰っていました。
本当にもったいないことです。こんなに素晴らしい芸術作品を眠らせておくのは誠に遺憾です。
お住まいは立派なマンションですが、マンションの住人は誰一人として連絡先も知らないし顔も知らないそうです。マンションの1階には素敵なロビーもあるので、そこで展示会が開催出来たらさぞ素敵だと思うのですが、お母さんは『そういうことは許されていないの』と残念そうにしていました。
このまま蔵にしまうのは早すぎるものが、この町にはいくらでもあるのでしょう。お母さんは95歳ですから確かに数字だけ見れば高齢です。だからこそ、このような素敵な作品をいまだに作り続けることは誇らしいことであり、僕を含めた若い者の憧れになる存在だと感じます。
このブログを読んでいただいている方の中に、お母さん以外にも同じようなまだまだ力を秘めている方をご存じな方がいらしたら、是非僕に教えて下さい。皆さんの作品を持ち寄って展覧会を開きたいと思います。よろしくお願いいたします。